インクルーシブファッションとは「障がいの有無や年齢、性別、国籍などに関わらず、すべての人を孤立させず、包摂することを目指すファッション」のことで、ユニバーサルファッションと同義です。
その最終審査ファッションショーが3月25日、東京・丸ビル1階「マルキューブ」にて開催され、私もユニバーサルファッション研究者として雨の中、満を持して駆け付けました。
作品はフリー部門と障害のある方の着用を前提としたインクルーシブ部門を合わせて707件もの応募があったそうです。厳正な審査の結果、両部門からファイナリスト7組、計14組の作品が、ランウェイショー形式で披露されました。
ショー後、執り行われた表彰式で、インクルーシブ部門の東京都知事賞・大賞にエスモードジャポンの河村 奈央子さんの作品「The Dancing Baobab (ザ ダンシング バオバブ)」、東京都知事賞・優秀賞に国際ファッション専門職大学の丸山奈月さんと野島瑛貴さんの作品「難病を患っている方に寄り添うファッション」が受賞しました。また特別審査員を務めた山本耀司さんからは山本耀司賞がファイナリストの14組全員に贈られました。
大賞の河村 奈央子さんの作品「The Dancing Baobab (ザ ダンシング バオバブ)」は、バオバブの木をイメージして、バオバブが着る人の動きに合わせて踊っているような形に変化する造形を表現したとのことです。神秘的な命が宿っているかのように見える、巧みなデザインに拍手です。
受賞後のインタビューで、河村さんは、「このコンテストで印象的だったのはワークショップです。車イスのモデルを頼むなど、いろいろな方との出会いがあり、コミュニケーションをとりながらモノづくりできたことは、これからの大きな経験になりました」とコメント。
優秀賞の丸山奈月さんと野島瑛貴さんの作品は、「がんなどの難病に苦しむ方が『自分らしくあり続ける』ことができるようにサポートするファッション」をコンセプトに制作したというドレスです。
身体的機能にこだわったデザインを開発するために、患者を支援するNPO法人への調査を実施したといい、この綿密な調査も高く評価されました。
服の前と後ろが分かれるようになっていて、弱い力でも簡単に外せるようになっているのがポイントといいます。
いずれも機能と装飾を両立させたデザインで、これを機に東京から世界へ大きく羽ばたかれることでしょう。
このイベントに出席した小池都知事の挨拶も心に染みるものでした。
「2021年のパラリンピック2020大会は、世界人口の15%が何らかの障がいを持つと言われている中で開催されました。ファッションコンテストで初めてインクルーシブ部門を設けたのは、障がい者だからこそ感じている困難や困りごとを、ファッションで少しでも明るく楽しくできるように、との思いからです。今後のファッション産業の新しい文化として、また東京から世界へファッションを発信していくという意味でも大きな意義があると思っています」と。改めて、インクルーシブ部門があることで、衣服の美しさだけでない機能性を一人一人が真剣に考えるよい機会になった、と思うと同時に、誰もがファッションを楽しめる社会へ、さらに一歩近づいた気がしたコンテストでした。
2022年06月09日
NFDTインクルーシブファッションに光を当てたコンテスト
美しさ+機能性で広がる可能性
代表理事 柳原美紗子