一般社団法人 湘南くらしのUD商品研究室
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2023年01月20日
 
「くらしのデザイン展 2022」“ケアとアートとデザインと”
50代から楽しむ理想の生活のための提案

代表理事 柳原美紗子

  

  「Good Design Good Over 50’🄬 くらしのデザイン展 2022」が10月22日~11月 7日、池袋西武本店にて開催され、見に行ってきました。
  これは一般社団法人ケアリングデザインが50代から楽しむ理想の生活のための道具と住まい方を提案するイベントで、毎年秋に西武池袋本店にて行われています。
  今年は設立10周年を迎え、テーマは“ケアとアートとデザイと”でした。日本デザイン振興会、東京芸術大学、そごう・西武、豊島区と産官学が連携して、福祉とアートとデザインが融合する新しい商品や取り組みが、下記の三つのグループで紹介されていました。
  (私は突然訪れたのですが、スタッフの方が親切に案内して下さいました。)






  一つ目のグループは、グッドデザイン賞で知る「ケア×デザイン」です。
  2022年度のグッドデザイン賞から、ケアプロダクト、インクルーシブプロダクト約30点がコーナー展示されていました。中でも私が注目したのが、最先端テクノロジーを駆使したプロダクトです。
  その一つが視覚障がい者の単独歩行を支援するナビゲーションシステム「あしらせ」です。
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  靴に差し込んだウェアラブル振動インターフェースとスマートフォンアプリによる音声入力で、ルート情報が足元の振動により伝わり、向かう方向を直感的に示してくれます。眼の不自由な方は、これまで苦労していたルート確認作業から解放され、余裕を持って移動することができるようになりました。
  装着も簡単で、日常履いている靴に視覚障がい者自身で取り付けられるとのことです。足に沿う立体構造で、自然な装着感が得られ、杖以外に手に何も持たなくても外出できるといいます
  開発したのはアシックス・ベンチャーズ株式会社が出資する(株)Ashiraseで、グッドデザイン賞金賞を受賞。来年3月からの発売が予定されているそうです。


   もう一つ、グッドデザイン賞金賞を受賞したのが、本田技研工業のハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE」です。
  一般に電動車いすをはじめ、パーソナルモビリティを使うときは片手ないし両手を使って操作しなければなりませんが、これは着座しながら両手が自由に使える歩行感覚のモビリティです。運転操作のために両手を使わない、バランス制御技術で体重移動だけで全方位に移動でき、免許も練習もいらないという、新次元の乗り物です。
  座る際は安定したローポジションで、移動の際は座面が上がってハイポジションに移行し、立っている人に目線が近くなるのも嬉しい機能です。健常者と同じ目線でコミュニケーションをとることができるので、車いすユーザーにとってはとくに大きな解放感を得られるのではないでしょうか。
  本田技研の長年にわたる、2輪やロボティックスの開発技術を最大限に活かした、まさに自分の体が拡張したかのようなモビリティで、移動の本質的な楽しさを実現する衝撃の発明と思いました。
  利用開始は来年3月からだそう。


  二つ目のグルーブは、東京芸術大学が取り組む「アート×福祉」です。
  ここで私がもっとも興味を引かれたのが「誰でもピアノ」です。東京芸術大学がヤマハと共同開発した指一本で弾ける自動伴奏つきピアノで、片隅にドーンと展示されていました。
  試しに演奏できるというので、私も体験してみました。右手の人差し指1本で楽譜のメロディを見ながら鍵盤を叩くと、それに合わせて自動的に伴奏してくれます。下手でも熟練したピアニストのような演奏ができて、「いやー!」と、驚きました。
  既に障がい児教育現場や高齢者向けレッスンなどで、親しまれているそうです。


  またもう一つ、驚嘆させられたのが、“見えるを叶える”レーザ網膜投影カメラ「RETISSA NEO VIEWER」です
  このカメラはQDレーザ社が独自に開発したビューファインダーをソニー製デジタルカメラに装着し、網膜投影のテクノロジーにより、眼のピント調整機能の影響を受けずに、視力に依存しない新しい視覚体験を実現するというものです。老眼や近視など見えづらさを抱える人も、眼鏡やコンタクトレンズといった矯正手段の必要なしに、自身の目で見て撮影ができるようになるといいます。
  まだ開発段階ですが、試用された方から「視力が上がった」との喜びの体験談が寄せられているとのこと。商品化が期待されます。


   3つ目のグループは、「ルーム・ウィズ・アール・ブリュット(Room with Art brut)」です。アール・ブリュットとはフランス語で「生(き)の芸術」の意味で、既存の美術教育とは無縁の文脈によって制作された芸術作品を指し、日本では主に障がい者のアートのことです。
   展示されていたのは、障がいのある人たちのアートを発信するエイブルアート・カンパニー(Able Art Company )と、インテリア業界最大手の(株)サンゲツとのコラボレーションによるインテリア製品でした。
  目を引いたのは、エイブルアート・カンパニーの平田貴子さんによる「流れる色」と題したクッション(写真右)や、TOMOKOさんデザインのカーテンです。モダンで洗練された意匠が、北欧家具とマッチしてステキな空間を形作っていました。
  アール・ブリュットのアート作品は以前からよく見ますが、このようにプロダクト化されることはまだまだ少ないようです。
  この動きがこれからもっと、広がっていくことを願って、本展を後にしました。



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