一般社団法人 湘南くらしのUD商品研究室
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2022年02月22日
 
垣内俊哉氏講演「バリアバリュー 障害を価値に変える」
バリアフリーで経済を活性化させる

主任研究員 柳原美紗子

  

  「中小企業 新ものづくり・新サービス展」がエコプロ2021展と同時期に開催され、関連セミナーに、株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内 俊哉氏が登壇しました。テーマは「バリアバリュー 障害を価値に変える」です。

  垣内氏はTVなどで見るように車いすに乗って現れました。講演では障害や障壁、コンプレックスを価値と捉えるバリアバリューの考え方に至った経緯や経験談から障害者の歴史、創業に至るまでのストーリー、経済性と社会性を両立するユニバーサルデザインへの取り組み方法までを、筋道を立てて論理的に語られました。その明快な口調が印象的でした。下記にその概容を記します。

  冒頭、語り始めたのはSDGgが目指す「誰も取り残さない社会」です。この中で欠かせない存在が障がい者であると強調しました。垣内氏はご自身も障がい者です。岐阜県中津川市で育ち、生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送っています。日本は大宝律令以来、障がい者にも平等に区分田が与えられるなど、江戸時代まで多様性に配慮した社会制度下にあったそうです。そんな日本だからこそ今改めて多様な方々と向き合っていこうという気運が高まっていますし、超高齢社会の日本の現実と向き合う中で新たな製品やサービスやイノベーションが生まれていると指摘しました。

  まず、タイトルの「バリアバリュー」という言葉です。このキーワードを紐解くことで、障がいとは何かを伝えたいといいます。「バリア」とは「障がい」のことで、「バリアフリー」は障がいを取り除く考え方です。一方「バリアバリュー」は、「バリア」というマイナスをゼロにする考え方です。障がいをハンデと捉えるのは本当なのかと見つめ直し、視点を変えてみると、障がいは一転、価値、即ち「バリュー」に変わるのです。

  人生の5分の1を病室で過ごした垣内氏が、このように考えるようになったいきさつは、次のようです。転機は大学に入って、就職した会社で、一番の営業マンになったことだったそうです。理由は人に覚えてもらいやすかったから、とか。上司に「障がいがあることに誇りを持て」と言われたこともきっかけとなったようです。「障がいがあるからこそできることがあるのではないか」と思うようになり、20歳で起業、「バリアバリュー」を提唱するようになったといいます。

  次に日本という国が障がい者とどのように対処してきたのか、その歴史を振り返りました。江戸時代まで、日本は意外にも、障がい者が道を切り開き活躍する社会だったのです。鍼灸の杉山検校や筝曲の八橋検校など、最高位の役職に就いた人物も多く現れました。しかし明治以降は切り捨てられ隠される存在となってしまいます。少しずつ社会参加が進むようになったのは戦後です。1970年の大阪万博に登場した点字ブロックは日本の発明品で今では世界75か国に広がっていますし、大阪地下鉄は世界初のエレベーター設置率100%を達成しました。この20~30年、日本は多様性と向き合う社会へ変化したといいます。2000年代に入り、法律や条例が改正され、電車の駅などのバリアフリー化が進捗します。その結果障がい者や高齢者の外出機会が増えて、交通機関は潤うようになったのです。例えば高槻駅周辺では4000万円を投じてエレベーターを設置したところ、2億円の経済効果があったといいます。ユニバーサルデザインやバリアフリーは弱者救済や社会貢献ではなく経済活動としてビジネスにすることが重要と断言します。環境整備が進むことで大勢の人が外出し、インバウンドも増え、新しい市場が生まれるのです。

  法律も整備されつつあります。2013年、障がい者差別解消法が成立、2016年に施行され、障がい者への合理的配慮が努力義務となりました。2021年5月にはより厳しい改正が行われ、合理的配慮は国や自治体のみならず民間事業者にとっても法的義務となり、3年後の2024年に施行されます。アメリカにはADA法があり、違反すると訴えられます。日本もアメリカのように提訴が増える可能性があるのです。法律があるから仕方なく配慮するのではなく、今から少しずつ取り組む必要があるといいます。

  話はさらに進んで、社会的経済的に企業が取り組むべき課題とは何か、に入っていきます。東京パラリンピックでエレベーター普及率が67%が96%にはね上がるなど、日本のバリアフリー化率は今や世界一です。日本は世界で一番外出しやすい国となったのです。とはいえ多様な人に対する見方が2極化(過剰と無関心)しているのが日本で、見て見ぬふりをしたり声をかけなかったり、そもそも障がい者の不満を知らない人が多すぎるといいます。

  障がいは人ではなく環境にあり、社会の側に存在しているときっぱり。このバリアをなくしていくために企業や社会全体に求められていることは何なのでしょうか。垣内氏は大きく下記3つの要素を挙げて解説しました。

  1つ目は「環境」で、日本は国土が狭いので、バリアをなくすのではなく、つくらないことが大切であり、企画設計段階からユニバーサルデザインを考慮すべきといいます。2つ目は「行動」で、自分とは違う誰かの視点に立ち行動を変えることです。それが「ユニバーサルマナー」であり、この考えを知り実践することでこころづかいの輪を広げようと提言します。ハード(設備)を変えることができなくても、私たち一人ひとりの「ハート」は今すぐに変えられるのです。3つ目は「情報」で、情報配慮のバリアフリーが不足しているといいます。手話やWEBサイトの読み上げサービスなど圧倒的に足りません。そこで垣内氏が代表を務めるミライロはこの分野に取り組み、世界に先駆けて障がい者手帳の電子化に挑戦、事業を成功に導いたといいます。これにより不正利用の横行がなくなり、ネット上で本人確認もできるようになったそうです。

  最後に高齢者について取り上げました。障がい者の延長上に高齢者があり同時進行しており、複合的多面的なサポートを求めているのが高齢者といいます。シニア市場は障がい者への理解無くしてありえないと明言したのも心に残りました。高齢者は現在、4人に1人、障がい者は964万人で、年に30万人ずつ増加しています。両者を合わせるともうすぐ4,000万人を超える巨大市場になります。あらゆる業種で多様性に配慮した取り組みが、この2~3年で一気に進み始めているのです。バリアフリーの店舗へのリピーター率は、健常者で3割、高齢者4割、車いすユーザーは6割というデータが出ていますし、アメリカでは障がい者雇用やサービスを提供している企業とそうでない企業とでは、利益率でも売上で3割もの開きがあるといいます。ユニバーサルデザインは収益アップのための新たな一手になるのですね。

  垣内氏はハードもハートの部分も世界の手本となるように、世界をリードし誇れる日本を皆さんと一緒に創っていきたい、と結び、締めくくりました。大きな感動に誘われた講演でした。



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