ユニバーサルデザイン(UD)を基本理念として活動している国際ユニバーサルデザイン協議会(IAUD)が実施している「IAUD国際デザイン賞2020」のプレゼンテーション/表彰式が、12月18日、開催されました。オンラインにての開催で、私もメンバーの一人として参加させていただきました。
2020年で10年を迎えるこの賞には、世界14か国から67件のエントリーがあったとのことです。「大賞」1件、各部門の「金賞」9件、「銀賞」19件が選ばれました。また2019年から設けられている「銅賞」が、今回は思いがけなく35件と多数選定されていて、UDの奨励に喜ばしいことと思ったことでした。
とくに目新しかったのは、受賞作品に、各作品と関係の深いSDGsの目標が表示されていたことです。SDGsの原則は「誰一人取り残さない」で、UDの基本理念である包括性(inclusivity)と合致しています。UDとSDGsが連動していることがはっきり伝わって、受賞者にとっても大いに励みになると思いました。
大賞 米国オリンピック&パラリンピック博物館
大賞は、もっとも優れていると評価されるデザインに贈られます。2020年は公共空間デザイン部門から、米国オリンピック&パラリンピック博物館が受賞しました。
コロラド州コロラドスプリングズ市に2020年7月30日に開館した新しい博物館です。あらゆる人に公平に開かれているインタラクティブな博物館で、オリンピアンもパラリンピアンもコンテンツとデザインを通じて真にインクルーシヴな体験をすることができるといいます。展示品は障害のある人の特定のニーズや好みに応じて、一人ひとり個別に設定でき、設定の変更も自在とか。
まさにすべての人のための博物館のすばらしい実例ですね。
https://vimeo.com/496989822
金賞 パワードウェア「ATOUN」
「IAUD国際デザイン賞2020」で金賞の受賞作品は9件ありました。中でも私がもっとも興味深く思ったのが、ATOUNのパワードウェア「ATOUN MODEL Yシリーズ」です。
https://www.youtube.com/watch?v=AdZgxUpITfA&feature=emb_logo
ATOUNは、作業支援用の「着るロボット」を開発しています。とくにこのモデルYシリーズは比較的重いものを持ち上げる際の腰と背中や腕の負担を軽減するウェアラブルロボットで、旧モデルより約40%軽量化とコストダウンにも成功したとか。センサーが腰の動きを検知し、作業員が重いものを持ち上げたり動かしたりするのを助けてくれるとあって、介護などの現場でなくてはならないものになってきそうです。以前展示会で、私も試着させていただいたことがあって、そのパワーに驚かされたことがありました。 既に、1年あまりの調査を経て、2019年より介護施設への製品提供が始まったとのことで、導入が期待されます。
銀賞「みんなのピクト」安心の食事
「IAUD国際デザイン賞2020」で銀賞を受賞した19件の内、ぜひご紹介したいと思ったのが「みんなのピクト」です。
これは食物アレルギーなどの情報を正しく伝えるピクトグラム(絵文字)で、電通ダイバーシティ・ラボ/一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会/東京電機大学が、誰でも安心して食事を楽しめるようにと、協働開発したものです。対応するのは特定食材28品目で、延べ1000名以上の協力を得て「図案の妥当性」や「ぼかし・縮小状態での視認性」などを調査し、検証を重ねて完成させたといいます。
近年、アレルギー疾患の子どもたちが増えているといわれます。10年前ですが、厚生労働省の調査によると、0歳~14歳の子どもたちの約40%に、東京・大阪など都市部に住む4歳以下の子どもたちに至っては51.5%、つまり2人に1人の割合で何らかのアレルギー症状が認められたそうです。原因は花粉やダニなどが中心ですけれど、食物が原因とされるものも数%あるといいます。この「みんなのピクト」が食品の包装やパッケージに付けられて、 アレルギーの心配なしにすべての人が食事を楽しむ社会になるといいなと思います。
日本のピクトグラムは世界的に高く評価されていますし---。もしかしたらこれが日本発祥のトイレマークのように、世界標準になるかもしれません。そう思うとうれしくなります。
医療用ストッキング「クールララ」
「IAUD国際デザイン賞2020」で数は少なかったものの繊維製品の受賞もありました。その一つが医療福祉部門で、銅賞を贈られたベーテル・プラスの医療用弾性ストッキング「クールララ」です。
リンパ浮腫や静脈瘤を治療中の患者さんのために開発された医療用製品ですが、デザイン性が高く、穿いたら元気になれそうです。ムレから解放され、少しでも明るく楽しく過ごしてほしい、そんな想いで開発したといいます。カラーはきれいな色のツートンカラー配色で、着用時はオーソドックスな色目のみが見えるようにデザインされています。切替線を生かしたバランスのとれたスタイリングで、編地は漸減的に加圧する設計、縫い目を表側に出した縫製は敏感肌にも優しい仕様です。小物入れとして使えるパッケージも、ストッキング着用をイメージできる「脚シルエットの透明窓」付ポーチになっていて、プレゼントにしても喜ばれそう。
こんなハイスペックな機能美が評価されて、2019年度のグッドデザイン賞を受賞。新型コロナでメディカル衣料がクローズアップされる中、ファッション企画にヒントを与える注目の受賞といえそうです。
オネスティーズ 裏表前後ない肌着
ファッションデザイン部門で銅賞を受賞したのが、大阪府泉佐野市にあるオネスティーズ(HONESTIES)の裏表や前後のないスマート肌着です。
前と後ろの区別がなく、裏も表も気にしないで着用できるとは、何て楽チン。肌着を着るときには、必ず裏表や前後を確認しないといけません。おっちょこちょいの私はよく間違って袖を通してしまいます。あとで気づいて着直すことも度々。洗濯ものも、裏返ったものを返してたたむなど、意外とストレスでした。どんな風に着ても、正しく着られる肌着は、とくに視覚障がいなどのハンディキャップのある方には朗報です。
この肌着開発のきっかけとなったのが、目の不自由な方との出会いだったそうです。全盲の中学生ドラマーの動画をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=NzvtBARtz3g&feature=emb_logo
生地は裏表のないコットン100%のもの、縫製は縫い目で肌を痛めない特殊な4本針ミシン「フラットシーマー」を採用しているとのこと。2020年度グッドデザイン賞を受賞しています。
ビジネスマンや子育て、介護などで忙しい方にも裏表や前後がないなら、シンプルで簡単。これぞまさしくユニバーサルデザインの衣服ですね。
2021年02月06日
IAUD国際デザイン賞2020
SDGsの原則「誰一人取り残さない」とUDの基本理念「包括性」(inclusivity)の連動がより明確に
主任研究員 柳原美紗子