一般社団法人 湘南くらしのUD商品研究室
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2019年6月4日
 
VR(バーチャルリアリティ)認知症体験会

認知症を持つ人の症状、日常生活を知る


主任研究員 石川裕子

 近年、認知症という言葉がTVや新聞、雑誌などメディアに多く取り上げられ、実際に自分の親や親せき、近所の高齢者など、認知症の症状を持つ人が身近に感じられるようになると、認知症と言われる人は一体何を見て、どう感じているのか、不可解な言動は何から来ているのか、理解して、対処したいと思うようになりました。そんな折、台東区主催の認知症体験会が区役所で開催され、参加してきました。
 この体験会は実際に視野を覆うゴーグルのような眼鏡をかけて、ヘッドホンもかけ、大きなスクリーンを見ることで、自分自身が認知症の人が見ている景色を見ることができ、その感情を追体験できるものになっていました。
 スクリーンに映し出されるものは次の3つのストーリーで構成されていました。
1.「私をどうするのですか?」―アルツハイマー型認知症の疑似体験
 これは車から降りるときに下を見ると、地面が遠く、まるでビルの屋上にいる感じで、自分の横と後ろにいる付き添いの介護職員からは「降りてください」「足を出しましょう」と言われる。足がすくんでうごけないでいるとなおも笑顔で声掛けが続き困惑するが、しばらくすると景色が変わり、地面の上にいることがわかった。
2.「ここはどこですか?」―見当識障害の疑似体験
 乗っている電車の中で居眠りをして、起きたときに、自分のいる場所が分からなくなり、どこで下車して乗り換えるのかもわからなくなる。大勢の人が下りた駅で一緒に降りてみたが、駅員さんに「ここはどこですか?」と聞いても、「出口はあちらです」と言われて、まごまごしていると、「大丈夫ですか?」と女性に声をかけられる。困っていることを伝えると、笑顔で「一緒に行きましょう」と言われ、安心する、というストーリー。
 39歳で若年性認知症を発症した現在44歳の丹野智文さんが登場し、元は車販売のトップセールスマンだったが、だんだんと人の顔や自分のいる場所が分からなくなり、通勤で乗換駅も分からなくなってしまった。今現在は外出時にはアルツハイマー型の当事者であることや、目的地や乗換駅を記載したパスケースを携帯し、困ったときには周囲の人にそれを見せて助けてもらうとのことでした。
3.「レビー小体病 幻視編」
 友人の家に招かれて入ると、無表情の見知らぬ人が立っていて驚くが、よく見ると帽子掛けだった。部屋のドアを開けると、また見知らぬ人が現われたり、知人たちと談笑しているリビングの中で床に座り込んでいる男性がいて、不安になるが、ふと見るとギターに変わっていた。犬が部屋の中を走っていたがすっと消える。携帯のコードが蛇に見えたり、どうぞ、といわれてチョコレートケーキの上を見たら、虫が動いていたり。これは知人には見えていなくて、自分だけが見えているようで、困惑する。
 このストーリーを監修した、レビー小体病の当事者である樋口直美さんからのメッセージ動画が視聴後に流れましたが、「幻視は本当にそのように見えていて、それが消えるまでは幻視かどうかわからない。見えているのに、それを否定されるとつらく悲しい。」と語っています。樋口さんは「幻視の薬は体が動かなくなったりうまく話せなくなったりと副作用があり、できれば使いたくない。幻視の症状を異常視せずに、何が見えるの?などと聞いて面白がってほしい。安心感を与えて、幻視と共存できるようにする努力をしていただきたい。」とのことでした。
 2.「ここはどこですか?」で登場した丹野さんの「僕たちの話をきいてください」という講演会の動画も流れ、その中で、「認知症だからと言って何もできない人と決めつけて僕たちからできることを奪わないでください。」と言うのも印象的でした。「認知症予防」の名の下に、認知症の人を否定してしまわないようにしたいと思いました。
 認知症にならないための食事や運動、生活習慣などがいたるところで紹介され、「認知症になったらおしまい」のような、必要以上に怖れているのは、私たちが認知症にかかったことがないからで、その症状がどこから来ているのか理解して、それを一つの個性と受け止めて、否定せずにおおらかに対応していきたいと感じました。

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